成果主義と倫理のバランスのとり方

こんにちは、阿部隆宗です。

今回はどうして成果主義は失敗するのか?
成果主義がダメならば、全員平等に扱えばいいのか?
どうすれば従業員にやる気を起こさせる制度を作れるのか?

などについて論じていきます。

成果主義の大失敗

1990年代から2000年代にかけて、成果主義が大量導入されました。

これは次のような経済学の理論から導きだされた思想でした。

前提:

  • 経営者と従業員の利害は一致しない
  • 従業員は怠ける誘因がある
  • 情報の非対称性がある。

つまり、従業員は会社のために一生懸命働かず、見えないところで怠けようとする。
そして経営者は従業員の働きを逐一監視することはできないため、
これを経営者自身が防ぐのは困難である、ということです。

これを防ぐための制度として、成果主義は導入されました。
つまり、「一生懸命働けば、それに応じて報酬は高くなる」
という仕組みを導入することで、経営者の努力を必要としなくとも、
生産性を向上させようとしたのです。

その結果はどうなったのでしょうか?

そして多くの企業が撤退、または大幅修正することになりました。

何が成果主義を破壊したのか?

なぜこのようになったのか?
それを紐解くための、次のような驚くべき研究事例を紹介します。

イスラエルの保育園:金銭的インセンティブの逆説

これはGneezy & Rustichini (2000)「罰金の導入が遅刻に与える影響」からの事例です。

イスラエルのある保育園で、保護者が子供を迎えに来る時間に遅刻することが問題となっていました。
そこで、遅刻した場合に金銭的なペナルティを導入することにしました。

従来の経済学の予測では、当然罰金を払いたくないため、遅刻は減少すると予測されました。
結果はどうだったのでしょうか?

遅刻は減少しませんでした。

それどころか遅刻はむしろ増加してしまったのです。
最悪なことに、罰金制度を廃止した後も、遅刻の件数は元に戻りませんでした。

この原因は何だったのでしょうか?

それは、道徳的義務が金銭的取引に変換されたためです。
つまり、「お金を払えば遅刻していい」と解釈されてしまったのです。

もう少しかみ砕いて言えば、
「遅刻=悪いこと」
から
「遅刻=お金で解決できるサービス」
へと認識が変化してしまいました。

これを専門用語でいえば、
「金銭的インセンティブは「内発的動機」を駆逐した」ということです。

要はお金を出したからと言って、みんながみんなやる気になるわけではないし、
それどころか逆効果になることすらあるということがわかりました。

さて、金銭的インセンティブが万能ではないことが分かったところで、
今度は視点を変えて、ゲーム理論的に考えてみます。

成果主義のゲーム理論的分析

「囚人のジレンマ」という問題があります。
これは自己の利益を追求する個人の間で以下に協力が可能となるかという社会科学の基本問題です。
ただし、その研究は幅広い分野で行われています。

以下のような状況があったとします。

2人の囚人がいました。
二人とも黙秘した場合は、それぞれ懲役1年です。

しかし一人だけ自白した場合は、
自白したほうが無罪
黙秘したほうは懲役10年となります。

つまり、裏切り者が得をします。

そして二人とも自白した場合は、懲役5年です。

このような状況の場合、合理的な選択は
二人とも自白して仲良く懲役5年となることです。

なぜなら両者とも、
黙秘してもよくて1年、最悪10年の懲役ですが、
自白すれば無罪、悪くて5年の懲役で済むからです。

このように、協力すれば全体としてはいい結果になるのに、
抜け駆けが誘発された結果、全体として悪い結果となってしまうのを、
社会的なジレンマと言います。

成果主義はこれと一緒です。

成果主義を導入した結果、協力するよりも、
非協力的な態度をとったほうが個人にとっては有利な制度となってしまったのです。

自分のスキル・情報、あるいは相手の仕事を手伝って、
相手の成果をあげさせたとします。

しかし、例えば上位20%の人だけが評価される制度だったとしたらどうでしょう?

相手はお返しにこちらの仕事を手伝うでしょうか?
手伝ったことで、こちらの成績のほうが相手より上になって、
相手の評価が下がってしまったら?

そう、相手はこちらを手伝うことで、相手の利得(評価)が下がる可能性があるのです。

よって相手はこちらの協力のいいとこどりだけして、
協力し返しません。
そしてそれは合理的な行動です。

このような状況で協力が促進されるでしょうか?
はい、もちろん促進されるどころか徹底して情報共有も仕事の協力もしません。

結果、全体の効率は落ちます。

もう少しかみ砕いてみましょう。

上位20%だけが報酬をもらえるシステムを導入したとします。

その結果、心理的安全性がなくなり、下位80%にならないために、
成果を独り占めするようになり、情報やスキルの共有が行われなくなります。

また、一見成果を挙げているように見えても、それは上位でいつづけるために、
倫理的でない手段によって行われている可能性もあります。

エンロンなどは成果主義が不正会計や倫理崩壊を招いた典型例として有名です。

結果、確かに短期的には成果はあがるかもしれません。
しかし、属人化が進み、
離職率が増え、本当に優秀な人もやめてしまいます。

「効率を追求しすぎると、非効率になる」これが成果主義の研究から生まれた結論です。

では成果主義を導入せず、全員平等、あるいは年功序列で待遇をすればいいのかというと、
それも違います。

なぜなら80対20の法則があるからです。

80対20の法則

人は直感的に、

「頑張れば頑張るほど報われる」
「努力は均等に報われる」

と思い込んでいます。

しかし、80対20の法則はそれを否定します。

80対20の法則とは、正式名称をパレートの法則とも呼ばれます。
1896年、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが発見した法則です。

具体的には、

  • イタリアの土地の80%を、人口の20%が所有している
  • エンドウ豆の観察の結果、20%のさやが80%の豆を生産
  • 様々な国で同じパターンを発見

といった法則のことを言います。

これをさらに、1940年代、ジョセフ・ジュランがビジネス界に、

「不良品の8割は、2割の原因から生じる」

という現象を広め、それを「パレートの法則」と名付けました。

これをさらに拡大させると、
大半の努力は実はほとんど成果に繋がっていないということです。
例えば、

  • 10個のタスクをこなすと達成感を得られる。
    だから10個全部大事だと思っている。
    しかし、実際にはそのうち8個はやらなくても結果は変わらない。
  • 公平性の観点から、すべての顧客、商品、プロジェクトを平等に扱おうとする。
    実際には一部の顧客が売上の大半を占めている。

成果は非線形であり、2倍働いても成果は2倍にはなりません。
逆に労力を半分にすることで、成果が2倍になることもあります。

しかし、これを知ってもなかなかそのことを受け入れることができない人がいます。

80対20の法則を受け入れられない最大の理由は、
「自分の過去の努力を無駄だったと認めたくない」という心理的抵抗にあります。

それはサンクコストへの執着だったり、
「自分は努力家」であるというセルフイメージだったり、
やらないことによるコントロール感の喪失だったりからきています。

だけれども、これは戦略的に経営していくうえで、
絶対に抑えておかなければいけない考え方です。

というのも、ビジネスでは多くの分野でこの80対20の法則が出現しているからです。
例えば、

  • 売上の80%は、20%の顧客から来ている。
  • 成果の80%は、20%の従業員が挙げている。
  • トラブルの80%は、20%の顧客から来ている。

といった具合です。これは理論ではなく、現実の問題です。
ということは、リソースを平等に分配するのは非効率であるということです。

リソースは限られています。よって、リソースは戦略的に分配しなければなりません。
戦略的に分配するとは、目的をもって、優先順位をつけて分配するということです。

戦略的に分配できないと、リソースの無駄遣いとなってしまいます。
リソースは限られているので、無駄遣いが許されるはずがありません。
したがって、効率的に経営するには、不平等に分配しなければいけません。

少なくとも80対20の法則が通じる分野では。

80対20の法則が起こる理由

足し算の世界では、一つが突出しても、全体への影響は限定的です。
掛け算の世界では、一つが2倍になると、結果も2倍、4倍と増幅されます。

もう少し詳しく、具体的にすると、

◆足し算の世界:
1+1+1=3
の3つの数字の内、2つを+1すると、

1+2+2=5
となります。

◆掛け算の世界:
1×1×1=1
の3つの数字のうち、2つを先ほどと同じように+1すると、

1×2×2=4
となります。

足し算の場合は、初期値の2倍弱で終わりました。
しかし、掛け算の場合は初期値の4倍になりました。

これはなぜ起こったのでしょうか?
答えは、次の通りです。
循環的な相互作用がある場合、80対20の法則が現れます。

相互作用とは、「一方が変われば、他方も変わる関係」を言います。
弱い相互作用だと、一つが変わっても一方的な波及に終わり、
変化した要素にその影響が帰ってきません。

一方的な相互作用は線形であり、結果は入力に比例します。
循環的な相互作用は、影響が自分に帰ってきます。
つまり、結果は指数関数的に増幅されます。

数式にすると:
一方向:y = ax(掛け算一回)
循環的:y = aˣ(掛け算が繰り返される)

パレートの法則は現実世界のありとあらゆるところに適用できます。
しかし、当然適用しないものもあります。

例えば、人体において脳や心臓は特に大事な臓器だからといって、
そこだけを大事にすればいいというわけでは当然ないし、
家族の20%だけ大事にすればいいという考えは誤りです。
(サイコパスでなければ)

また、ほとんど使わないからと言って、非常用の装置を撤去していいわけがありませんし、
経費の無駄だからと言って、点検を怠っていいわけがありません。
(最近それをやったサウナ店がありましたね)

こうした

  • 安全・健康
  • 人間関係
  • 土台
  • 倫理

などの部分においては、適用するべきではない場合も多いです。

その最も重要な判断基準を一言で言えば、

「これは最適化の問題か、それとも人間性の問題か?」
ということです。まとめると、

  • 最適化の問題 → パレート適用OK
  • 人間性の問題 → パレート適用NG

例えば20%の一部の社員が80%の成果を出しているからと言って、
80%の社員を無視しても良いわけではないです。

待遇という意味ではリソースを優遇してもいいですが、
倫理的な領域にまで効率性を適用してはいけません。

逆に倫理的な領域を拡大させて、リソースを平等にしてもいけません。
つまり、報酬に差は付けていいですが、尊厳には差を付けてはいけません。

もしも倫理を効率化した場合、それは組織全体を腐らせます。

先ほども言った通り、
心理的安全性がなくなり、下位80%にならないために、成果を独り占めするようになり、
情報やスキルの共有が行われなくなります。

また、一見成果を挙げているように見えても、それは上位でいつづけるために、
倫理的でない手段によって行われている可能性もある。

結果、確かに短期的には成果はあがるかもしれないが、属人化が進み、離職率が増え、本当に優秀な人もやめてしまいます。

そして効率を倫理化すると、努力や成果が報われない土壌が培われ、
向上心が喪失します。

それは企業の競争力を低下させ、企業を苦境に立たせます。
また向上心にあふれた優秀な人材ほど、そうした環境に見切りを付け、離職していくでしょう。

効率性と倫理感を両立するにはどうすればいいか?
それを成功させている実例を見ていきましょう。

実例

⭐Googleの実例

【効率の領域】

  • トップエンジニアに高額報酬
  • 成果を出すチームに予算増
  • 影響力の大きいプロジェクトに人員集中

【倫理の領域】  

  • 全社員に無料の食事
  • 誰でも経営陣に質問できる
  • メンタルヘルスサポートは全員平等
  • 成果が低くても人として尊重

⭐Southwest Airlines(サウスウエスト航空)

効率の領域(差別化している)

  • 昇進: パフォーマンスと適性で判断
  • 報酬: 利益分配は貢献度で差をつける
  • 配置: 適材適所、能力で役割を決定

倫理の領域(平等にしている)

  • 雇用保障: 50年間レイオフゼロ(9.11後も)
  • 利益分配: 全従業員が対象
  • 発言権: 客室乗務員もパイロットも平等に意見
  • 楽しさ: 全員が顧客を楽しませる文化
  • 敬意: 役職に関わらず互いを尊重

創業者ハーブ・ケレハー: 「従業員第一、顧客第二、株主第三。 この順番を間違えると全てが崩れる」

⭐Costco(コストコ)

効率の領域(差別化している)

  • 昇進: 実績ベースで管理職に登用
  • ボーナス: パフォーマンスに応じて差をつける
  • キャリアパス: 成果を出す人に責任ある役割

倫理の領域(平等にしている)

  • 基本給: 業界平均の2倍以上(時給17ドル〜)
  • 健康保険: 全従業員に提供(パートタイムも)
  • 尊重: CEOも倉庫で働く、階層意識が薄い
  • 雇用安定: 簡単に解雇しない

CEO発言: 「従業員を大切にすれば、従業員が顧客を大切にする。 それがビジネスの基本だ」

何が共通パターンなのか?

✅効率の領域で共通していること:
✓ 昇進・昇格は実力と実績
✓ 重要プロジェクトは能力で配分
✓ ボーナスや利益分配に差をつける
✓ 役割と責任は明確に区別
✓ パフォーマンスを測定し評価

✅倫理の領域で共通していること:
✓ 基本給は全員が生活できる水準
✓ 健康保険など基本的福利厚生は平等
✓ 雇用の安定性を重視
✓ 誰の意見も聞く文化
✓ 階層意識を薄くする工夫
✓ 全員が価値観を共有
✓ 人間としての尊厳は誰にでも

逆事例

⭐amazon(倉庫部門)

問題:

  • 効率を倫理領域まで拡大
  • トイレ休憩も管理
  • 過度な監視
  • 使い捨て感覚の雇用

結果:

  • 離職率150%(年間)
  • 労働組合結成の動き
  • ブランドイメージ低下
  • 議会の調査対象に

まとめ

最後にここまでをまとめます。

  • 成果主義の失敗は、「効率」と「倫理」の境界を見誤ったことにある。
  • リソース配分(報酬や役割)は成果や能力で差をつける。
  • しかし、人間としての尊厳や基本的な待遇は全員平等に。
  • 効率と倫理のバランスを取ることが、従業員のやる気と組織の持続的成長につながる。

一言で言うと:
「報酬は不平等でいいが、尊厳は平等にせよ」ということです。

今回はここまで。