コリンズ・ポラス式ビジョンの作り方
こんにちは、阿部隆宗です。
以前ビジョンが欠けた組織がどうなるかについての記事を書きました。
しかし、ではどうやってビジョンを作ればいいのかをまだ解説していません。
そこで今回はその作り方を解説します。
ビジョン作りのフレームワーク
ジム・コリンズは『ビジョナリー・カンパニー』のシリーズにおいて、ビジョンの大切さを説きました。
ビジョンは偉大な企業に不可欠であることは、多くの経営者に浸透しました。
しかし同時に、「ではどうやってビジョンを作ればいいのか」
という経営者からの悩みに答えられないでいました。
そしてそのことについて誰も教えられる人がいないことに気づきました。
このような悩みから生まれたのが、
「コリンズ・ポラス式ビジョン」のフレームワークです。
これはビジョンを、
- コアバリュー
- パーパス
- BHAG
の3つで構成されるものであると主張します。
そしてビジョンは不変のモノではなく、変わっていくものです。
正確には、不変のもの(コアバリュー、パーパス)と、変わっていくもの(ミッション[BHAG])が含まれており、
変わっていく要素が含まれているから、ビジョンも変わっていくということです。
さて、ビジョンの作り方を解説する前に、ビジョンとは何かについてはっきりと定義し、
ビジョンがどうして必要なのかについてはっきりとさせておきましょう。
なぜなら、ジム・コリンズのビジョンは一般的なそれとは少し違っているためです。
ビジョンとは、一般的に言えば「目指す未来の姿」です。
ジム・コリンズの定義によれば、
「我々は何者で、どこへ向かうのか?」の全体像となります。
偉大ではない企業にビジョンは必要か?
ジム・コリンズは「偉大な企業には必ずビジョンがあった」と言っています。
しかし、世の中の多くの人・企業は別に偉大になりたいと思って日々を過ごしているわけではありません。
なので、
「必ずしも偉大にならなければいけないわけではないだろう」
という意見が出てくるのは自然なことでしょう。
確かに偉大になる必要はなありません。
しかし結論から言えば、ビジョンは必要です。
なぜならビジョンがあることで、ビジネスを仕組化できるからです。
仕組化できていないビジネスとは、社長がいなければ回らないビジネスということです。
つまり、
社長がいなければ回らないビジネス👇
- 現場ではどういう基準で動けばいいかわからず混乱し、オペレーション効率が悪くなる。
- 組織の中の誰も、どこへ向かうべきかが分からないので、それぞれがバラバラな方向へリソースを浪費する。
- 属人性的なノウハウしかないということは、ビジネスの安定性に欠けるということ。
しかしビジョンがあることで、
- 意思決定を現場にいる各自で判断できる。👉一部の人員に依存しないので、ビジネスが安定する
- 人材育成もビジョンに沿って育成できる。
- 目指すべき場所がどこか、組織全体で共有しているので、リソースの無駄遣いがない。
コリンズ・ポラス式ビジョンでは、特にBHAG(後述します)の要素があることによって、ビジョンの中に情熱の要素を組み込んでいます。
情熱は、ビジネスのパフォーマンスを上げます。
つまり、本当に夢中になるものなら、ベストの中のベストを尽くそうとするということです。
報酬以上のベストパフォーマンスを、
義務感ではなく自然にやってのけるので、
成功の確率は飛躍的に高くなる、ということです。
要はビジョンを作る理由とは、
「社長がいなくても、成功し続けるビジネスを構築するため」
であす。
もう少し詳しく言うなら、
「特定個人に依存せず、組織そのものが自律的に判断し、進化し続ける仕組みを作るため」
である。
いちいち社長に聞きに来なければ成り立たないようなビジネスは、社長を会社の奴隷にしているだけ
ビジョンが浸透しているかを確かめる質問
| ・「自分(社長)がいなくても、組織は正しい判断ができるか?」 → コア・バリューが浸透しているか確認 ・「自分(社長)がいなくても、組織は同じ方向を向けるか?」 → コア・パーパスが共有されているか確認 ・「自分(社長)がいなくても、組織は挑戦し続けるか?」 → BHAGが設定され、組織に浸透しているか確認 |
ビジョンの3要素
ビジョンを構成する3要素は次の通りです。
| ビジョン | ||
| コアバリュー | パーパス | BHAG |
| 会社の指針となる原則。会社を導く哲学。 | 組織が存在する根本的理由 | 社運をかけた大胆な目標 |
| 意思決定の基準として必要👉一貫性を得る | 構成員のモチベーションのために必要👉一体感を持たせ、その上に情熱(内発的動機)を引き出す。 | イノベーションの促進のために必要👉競争力を持つ。 |
| 永遠に変わらない | 100年にわたって会社の指針となる | 少なくとも年単位で変わらないが、いつかは実現するものであり、すべきもの。理想は10~25年 |
パーパスは北極星です。つまり、永遠に向かう方向です。
BHAGは次の山頂です。つまり、具体的で到達可能な目標です。
バリューは羅針盤です。つまり、変わらない行動原則です。
パーパスは目的地ではありません。進み続ける方向です。
目的地はBHAGです。つまり目的地に着いたらBHAGは消滅します。
BHAGが達成されたら、再びパーパスに立ち返り、新しいBHAGを設定します。
作る順番は、コアバリュー → パーパス → BHAG となります。
まとめると、
| コアバリュー | 「こういう価値観で行動する」 |
| パーパス | 「その結果、世の中にこういう価値をもたらす」 |
| BHAG | 「それを実現するために、ここを目指す」 |
| 次のBHAG | 「次はここを目指す」 |
コアバリューもパーパスも、作るものではなく発見するものです。
作るものはBHAGだけです。それはパーパスとバリューに基づいて設定されます。
コアバリューを実践することによって、パーパスに向かって進み続けられます。(実現はされない。パーパスは永遠に追求し続けるもの)
コアバリューは無意識の信念の言語化であり、
パーパスは情熱の源泉の言語化です。
そしてBHAGはパーパスを具現化する目標です。
コアバリュー
コアバリューは、何があっても譲れない基準のことです。
これはすでに無意識で培われているもののこと。
つまり、コアバリューとは、「作る」ものではなく、「発見する」ものです。
それは「好み」ではなく、「これを裏切ったら自分ではなくなる」と言った、信念です。
それはありふれたものでもかまわず、たいていはありふれたものでしょう。
例えば教育者なら、
- 「誠実であること」
- 「学び続けること」
- 「他者の可能性を信じること」
と言ったものがコアバリューとなります。
それはありふれているが、教育者が実践していかなければならないバリューです。
⭐コアバリューをわざわざ言語化することで何を得られるか?
コアバリューを言語化するとは、他人の目にも自身・自社の価値観を見えるようにすることです。
よって、自分と合う人材を集める採用基準にすることができるし、そうした人材を引き寄せる「磁石」にすることもできます。
また、予想外のトラブルが起こった時に、判断の基準となります。
つまり、自分一人の内側に収めず、信念を可視化することで、ビジネスがシステマチックに動くようになります。
コアバリューを見つけ出すための質問
コアバリューを見つけ出す決定的な質問はこれです。
| 何があっても譲れない価値観は何ですか? もし大金を手に入れて働く必要がなくなっても、守り続けたい原則は何ですか? |
✅判断基準・行動原則を抽出するための質問
◆「これまでの人生で、どんな時に最も充実感を感じましたか?」
パーパス
パーパスとは、存在意義のことです。
あるいは「使命感」と言ったほうがビジネスとして適切に捉えられるかもしれません。
「何のために生きているのか?」
「どんな価値を世界に提供したいのか?」
その答えがパーパスです。
パーパスが明確だと、自然と情熱がわいてきます。
情熱だけで、パーパスがないと、方向性を見失い、情熱が燃え尽きます。
パーパスのある人は、生きる目的のある人と言い換えていいでしょう。
生きる目的のある人は、生きがいのある仕事とは何かを思い悩むことがありません。
優れたパーパスはスケールが大きく、本質的で刺激的です。
それは1~2文で言い表せるし、そうすべきです。
そうしなければ覚えられません。
つまり、とっさの時の意思決定の基準に使えなくなります。
パーパスはコアバリューから湧き出るものです。
よってパーパスもコアバリューと同じように見つけ出すものです。
パーパスが目的なら、コアバリューは手段です。
コアバリューを実践した結果、パーパスが実現されます。
バリューは「何を大切にするか」で、
パーパスは「なぜ存在するか」です。
実例(ディズニー)
パーパス:「人々を幸せにする」
✅ディズニーの従業員が、困った顧客に遭遇したとき
- パーパスを思い出す。「人々を幸せにする」
- 「この顧客を幸せにするにはどうすればいいか?」を考える。
- コアバリューを参照する
- 権限の範囲内で自律的に判断・行動する
パーパスを見つけ出すための質問
| 決定的な質問: もし100年生きられるとしたら、何を追求し続けたいですか? |
✅補助的な質問
何のために生きていますか?
どんな価値を世界に提供したいですか?
どんな活動をしているときに、最も情熱を感じますか?
ミッションとBHAG
ジム・コリンズは、ビジョンを策定するためのフレームワークを概念化しようとしたときに、
コアバリュー、パーパスに続く3つ目の要素を、「ミッション」にしようとしていました。
しかしミッションというありふれた言葉では、その概念を言い表すのに十分ではないことが分かりました。
そこでミッションという言葉はお払い箱にして、「優れたミッション」のことを、「BHAG」と言う言葉に置き換えることにしたのです。
「優れたミッション」は、人の心をゆさぶり情熱を掻き立てます。
正確には、「優れたミッション」———BHAGは情熱の振り向け先です。
情熱の文脈でビジョンの3つの要素まとめると、
パーパスは情熱の源泉であり、
BHAGは情熱の振り向け先です。
そしてコアバリューは情熱の制約条件です。
パーパス、BHAG、情熱だけだと、目的の為なら手段を選ばなくなります。
つまり、短期的に成功するかもしれないですが、長期的な信頼を失います。
コアバリューは情熱の発揮の仕方のルールです。
BHAGの4類型
BHAG(ミッション)には基本的に4つの類型があります。
- 目標
- 共通の敵
- ロールモデル
- 内部変革
1️⃣目標
明確で定義のはっきりした目標のことです。。
- NASAの月探査計画
- フォード「自動車を庶民のものにする」
- MIPSアーキテクチャ「1990年代半ばまでに世界中に浸透させる」
これらはすべて目標型ミッションです。
ただし数字付き目標は注意が必要です。
思い出してほしいのは、BHAGは社員にとって胸躍るモノでなければならないということ。
数字付きの目標に、そのような魅力を感じるでしょうか?
それはただの売り上げ目標ではないでしょうか?
数字付きの目標が魅力を持つのは、大きな意義と結びついている場合だけです。
◆クアーズ「1990年代が終わるまでにビール業界第2位になる」
2️⃣共通の敵
非常に強力ですが、創造性には欠けます。
強力な理由は、
- 人の闘争本能に訴えかける
- 共通の敵を示すことで、強烈な一体感を生む。
ためです。
とりわけ勝ち目のなさそうな敵に挑む場合に効果が高いです。
◆ペプシ「コーラを倒せ!」
◆ホンダ「ヤマハを潰す」
※ホンダは当時(今でもですが)オートバイメーカーの世界首位の座にありました。
そこにヤマハが挑戦状を叩きつけました。
それに対抗して掲げたミッションが、これです。
共通の敵型ミッションは、通常NO.1の座を目指しつつ、まだそこに到達していない企業が掲げます。
つまりは「ゴリアテに挑戦するダビデ」です。
⭐特に採用すべき企業
生き残るだけで精一杯になっている企業は、この戦略を取り入れるべきです。
なぜなら、単に「生き残る」ことが目的になっている企業を、「必ず勝利する」モードへ移行できるからです。
負け犬と戦士どちらが強いかは自明ではないでしょうか?
「生き残る」ことと、「勝ち取る」こと、モチベーションを創造的な方向へ掻き立てるのは後者の方です。
⚠️注意点
敵を倒しナンバーワンになったらどうするか?
共通の敵とは相手が強大であるほど効果が出ます。
よってナンバーワンになってしまうと共通の敵戦略は効果がなくなります。
それまでには新しいBHAGを設定しなければなりません。
3️⃣ロールモデル
分かりやすく、外部に説明しやすいモデルです。
「〇〇のような企業になる」という憧れの企業を目標にします
◆スタンフォード大学「西のハーバードになる」
◆ジロスポーツ「自転車ヘルメット業界のナイキになる」
業界が未成熟な内、分かりやすくロールモデルを示すことで、方向性を明確にできます。
ただし独自性には欠けますが。
4️⃣内部変革
組織内部の変革を目標にします。
少なくともジム・コリンズの見たところ、中小企業での優れた例ありません。
内部変革が必要なほど停滞した大企業だけが成功した例となります。
◆GE(1980)「私たちは小さな会社の機敏さ、リーンな組織、シンプルさ、俊敏さを身に着けることを誓う」
4類型のまとめ:効果の強さと使い道
| 類型 | 効果の強さ | 最適な使い道 |
| 共通の敵 | ★★★★★ | 後発企業、危機的状況、競争が激しい市場 |
| 目標 | ★★★★☆ | 成長期、スタートアップ、投資家向け |
| ロールモデル | ★★★☆☆ | 新興市場、スタートアップ、方向性を示したいとき |
| 内部変革 | ★★☆☆☆ | 成熟企業、危機的状況、M&A後 |
まとめ:ビジョンは“旅の地図”である
ビジョンとは、組織が歩む長い旅路の“地図”のようなものです。
コアバリューは旅の「コンパス」、パーパスは「北極星」、そしてBHAGは「目指すべき次の山」。
この3つを明確にすることで、道に迷わず、仲間と共に情熱を持って前進し続けることができます。
「自分がいなくても進み続ける組織」を目指し、
まずは自分自身の“譲れないもの”を見つけることから始めてみてはいかがでしょうか。
今回はここまで。
