売掛金の用途
売掛金の勘定科目が使われるときは主に次のような用途が考えられます。
- 売掛金を利用した系列化
- 事務負担を軽減するため
- 粉飾のため
以下にその具体例を解説します。
売掛金を利用した系列化
系列化とは、主にビジネスにおいて大企業が中小の流通業者や販売店を自社の傘下に収め、
系統的・恒常的な支配・従属関係を築くことです。
※系列化は他にも心理学の用語としてありますが、ここでは「流通系列化」について語ります。
流通系列化:製造業者が自己の製品の販路を掌握し、制御しようとする行為。
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ビジネスでは普通商品を引き渡したらすぐに代金を払うのが普通です。
しかし、販売店にとって、売れるかどうか分からない商品の代金を先に払うことは大きなリスクとなります(資金負担)。
だからメーカー側は、代金支払いの猶予を与えることで、そのリスクを減らすという提案をする代わり、系列化を図ろうとします。
つまり
「代金支払いを待ってあげるから、その代わりライバル社の製品は売らず、うちの製品だけ並べてほしい」
ということです。
代金支払いの猶予を待つとは、無利子でお金を貸しているようなモノです。
なので力関係は貸した側が強くなります。
家電業界や自動車業界といった初期投資がきわめて重い(つまり資金繰りが悪化する)業界ではよくあることです。
ただし現在ではその力関係は逆転し、販売店側がメーカーに圧力をかけることも多いです。
と言うのも、むかしは個人商店が主流でメーカーに資金を頼るしかありませんでしたが、
家電量販店(ヤマダ電機、ヨドバシカメラなど)の登場で、まとめて一括で仕入れる販売店が出るようになり、それらはメーカーにとっての上顧客となりました。
特定の日を支払日とし、事務負担を軽減する
商品を買うたびに、その都度支払っていたら、毎日なん十件も取引がある会社は事務作業だけでパンクします。
それを防ぐための合理化です。
また何度も支払うことによる振込手数料もバカになりません。
だから一度にまとめて払うほうが、手間も、手数料も節約できるので、特定の日を支払日とすることが習慣としてあります。
⭐「都度払い」と「まとめ払い(特定の日)」の違い
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【都度払いの場合(事務負担:大)】 1件注文するたびに、その都度、伝票を作って振り込みます。
- 5日:A社へ振込(手数料330円)
- 12日:A社へ振込(手数料330円)
- 25日:A社へ振込(手数料330円) 👉 A社1社だけなのに、3回も事務作業と手数料が発生。
【特定の日(支払日)にまとめる場合(事務負担:小)】
- 5日:納品書だけもらう
- 12日:納品書だけもらう
- 25日:納品書だけもらう
- 月末(締め日): A社から「今月の合計は35万円です」という請求書が1枚届く
- 翌月末(支払日): A社へ35万円を1回だけ振り込む 👉 事務作業も手数料も1回で済みます。
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「締め」と「支払い」のサイクル
多くの日本企業で採用されているのが、以下のような設定です。
- 締め日(特定の日A): 1ヶ月の合計金額を確定させる日(例:毎月月末)
- 支払日(特定の日B): 確定した金額を実際に振り込む日(例:翌月末)
例:月末締め・翌月末払いの場合 1月中に何度仕入れをしても、1月31日に合計額を計算し、支払いは2月28日に1回まとめて行えばOKとなります。
🟨 Q|どうして月末に締めたものを、翌月末という一か月間の猶予を持たせるのか?
🟦 A|
1️⃣売り手としては確かに早く払ってほしいが、買い手としてはキャッシュを払うことを先延ばししたいから。
2️⃣そもそも翌月の頭には間に合わないから:例えば31日に締めたとして、その日に発想された商品が届くのは2月の頭になる。そして請求書も同じくらいとなり、その照合作業に時間がかかる。よって最終的な社内の承認を受けるのが2月15日位となる。よって事務的に無理。
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※日本企業には5の倍数の日に決算を行う習慣があります。なので五日、とか一〇日は経理担当者が忙しくなります。
売掛金は粉飾のもっとも定番の道具
なぜ粉飾において売掛金が最もよく選ばれるのか?それは<架空の売上を簡単に作れる>ためです。
会計には「発生主義」というルールがあります。
これは<取引によって経済的価値が発生した瞬間に記録する>という考え方です。
例えば
- 1月20日に商品を納品。
- 2月10日に入金
という流れの場合、入金日ではなく、納品日が基準となって帳簿に記入されます。
ということは、現金取引が実際に発生しなくとも、帳簿に記入だけはできるということです。
また実体が見えにくいのも粉飾に選ばれるポイントです。
棚卸資産(在庫)の水増しは倉庫に偽の箱を置くなどの物理的な細工が必要ですが、売掛金は帳簿上の数字を書き換えるだけで済むからです。
要は<現金が動かなくとも利益を水増しできる>という便利な性質があるため、嘘をつきたい経営者にとっては格好の隠れ蓑になります。
よくある粉飾の手口
具体的には以下のような手口があります。
- 架空売上の計上: 存在しない取引先に対して「1億円売りました(代金は後でもらう売掛金です)」と嘘をつく。
- 押し込み販売: 期末ギリギリに、系列店などに「返品してもいいから、とりあえず買ったことにして伝票だけ切らせて!」と頼み込み、売掛金を積み増す。
- 循環取引: A社→B社→C社→A社と、仲間内で同じ商品をグルグル回して、実態はないのに各社の売上と売掛金だけを膨らませる。
⭐具体的なシミュレーション
1. 正常な状態
まず、まともに商売をしている時の数字です。
- 売上: 1,000万円
- 経費: 800万円
- 利益: 200万円
- 資産(売掛金): 100万円(すでに入金済みのものが多い状態)
2. 粉飾をした状態(売掛金の水増し)
例えば存在しない「A社」に対して、<500万円の商品を売ったこと(架空売上)>にします。
- 売上: 1,000万円 + 500万円(架空) = 1,500万円
- 経費: 800万円(架空の売上には仕入れが発生しないのでそのまま)
- 利益: 200万円 + 500万円 = 700万円
- 資産(売掛金): 100万円 + 500万円 = 600万円
何が起きたか?
- 利益が3.5倍に爆増: 帳簿上の利益が200万から700万に跳ね上がります。これで「うちの会社は絶好調です!」と嘘をつけます。
- 資産も増える: バランスシート(貸借対照表)の上でも、資産(売掛金)が500万円増えるので、会社がリッチになったように見えます。
こうして銀行には業績が好調であるとアピールし、融資を引き出そうとします。
しかしこの売掛金はあくまで架空のものなので、いつまでも現金化しません。
売掛金は通常1か月くらいで、それを超えると受取手形をもらいます。
※受取手形で粉飾をすることはありますが、売掛金ほどではありません。
なぜなら手形は売掛金と違って、現物が必要となるからです。
ただ共犯者がいる場合は融通し合う形で悪用される可能性はあります。
粉飾を見抜くには
粉飾がある場合、売上債権回転期間が伸びていきます。
売上債権回収期間とは、ざっくり言えば<代金回収のスピード>のことです。
式は
売上債権(売掛金+受取手形) ÷ 一か月あたりの売上高
で求めます。
これが短いと商売が非常に効率的と言えます。
なぜなら売ったらすぐにお金が入ってくるためです。
例えば
売掛金2000万で、月商1000万の場合は、回収期間2か月となります。
※話を分かりやすくするためにあえて売上債権を売掛金に絞って計算
業界の標準を大きく上回った場合は、粉飾があると疑っていいでしょう。
1.5~2倍になると赤信号。
また前年比でも同じことが言えます。
短期間で回収期間が伸びたら同じように危険信号です。
通常、回収ルールは一度決めたらそう簡単には変わらないので、短期間で数字が動くのはおかしいのです。
以下は健全なラインとレッドラインを業界ごとにまとめた表です。
| 業界 | 健全なライン | 疑うべきライン(レッドカード) |
| 小売・飲食 | 0.5ヶ月以下 | 1.0ヶ月以上(現金商売なのにおかしい) |
| IT・ソフト開発 | 2.0ヶ月前後 | 4.0ヶ月以上(架空の検収を疑う) |
| 製造・卸売 | 2.5ヶ月前後 | 5.0ヶ月以上(架空売上の定番ライン) |
| 建設業 | 5.0ヶ月前後 | 10.0ヶ月以上(工事が止まっているか架空) |
今回はここまで。
