凝った広告を作れば売れるのか?

こんにちは、阿部隆宗です。

セールスライティングを学ぶと、
ついつい人間の根源的欲求に訴求するような、
「ゴツイ」ヘッドラインを考えたくなります。

例:

「鏡を見るのが苦痛だった40代女性が、なぜ、1日3食しっかり食べながら、
まるで脱皮するように20kgの脂肪を脱ぎ捨てることができたのか?
遺伝子のスイッチを強制的に書き換える『細胞リセット術』の全貌」
(ダイエット)

「才能はいらない。ただ、この『心理的テンプレート』に言葉を流し込むだけ。
翌朝、あなたのメールボックスは注文通知で溢れかえることになるだろう」
(セールスライティング)

「朝、起きるのが辛い……その正体は『細胞のサビ』でした。
どんよりと重い毎日を、みなぎるような活力と20代の頃のようなキレのある動きに変える、
NASAも注目した奇跡の天然成分を凝縮」
(サプリ)


<人間は論理ではなく、感情で購入する>

というセールスライティングの原則を学ぶと、
どうしても直接商品を紹介するような広告が、
素人っぽく見えてできなくなります。

例:

「1か月集中ダイエットコース 半額セール」

「iPhone 17が無料で手に入る!」

「新規オープン:〇〇駅前パソコン教室」

しかし「素人っぽい」からと言って、先の「玄人っぽい」ものよりも、
効果が薄いかと言えば、実はそうではありません。

もちろん素人コピーは素人でも書けますが、
それは効果が引くこととイコールではありません。
本当のプロは、素人コピーの「方が」効果がある場面を熟知しています。

効果があるかないか、それは何で決めるのか?

それをこれからお話ししていきます。

※以下、セールスライター、コピーライターは、
<売るための広告の文章を作る人>という意味で同じであるとします。
正確には違いますが、そこは本質ではないので。

またコピーとは広告の文字全般のことです。

商品認知度と市場成熟度

素人コピーの方が効果がある場面とは?
ズバリ言います。
それは商品がよく知られている場合です。

例えば先ほどの例だと、iPhone17が分かりやすいです。

2026年現在、iPhoneの最新版である17が、無料で手に入る。
これほど分かりやすいメリットはないでしょう。
そしてiPhoneを知らない人は、まずいないので、これは抜群の知名度を誇っています。

そういう市場の場合、つまり、誰もが欲しがっている商品の場合、
それを直接訴求するほうが、広告戦略として最もスマートです。

ここで逆に変に凝った広告を出すと、せっかくのアピールポイントを使わないことになります。
iPhoneがただで手に入るという、これ以上分かりやすいアピールなど存在しません。
そして広告において分かりやすさは、そのまま広告の効果と比例します。

断言しますが、熟練のコピーライターが書いた凝った広告よりも、
iPhoneにおいては先ほどの例の広告のほうが効果があります。

しかし当然ですが、商品のことを分からない、知らない場合は、
商品の名前を広告に出しても無意味です。
それがなんだか分からないものを欲しがる人は誰もいません。

そういう場合は逆に、熟練の技が必要となります。

つまり、商品の姿は見せず、商品で得られる効果を広告で訴求するのです。
いや、しないと購買意欲を沸かせることができないのです。
そして世の中の商品は、ほとんどがそのようなものでできています。
だから素人が考えた広告では効果が出ないのです。

ヘッドラインに必要なこと

改めて、今回の記事について言っておくことがあります。
それは、今回の話は主に広告のヘッドラインについての話です。
ヘッドラインとは、広告で一番最初に目にするところであり、
そうであるがゆえに広告で最も大事な部分です。

なぜならどれほど本文が素晴らしいものであっても、
見てもらえなければ意味がないからです。

ゆえに、ヘッドラインが広告効果の9割を占めると言われているくらい、
重要な個所となります。

そして、ヘッドラインについての思い込みの一つに、
<ヘッドラインは売り込みをしなければならない>
というものがあります。

売り込まないでどうやって売ればいいのか?

という疑問が浮かぶかもしれません。
しかしヘッドラインの仕事はそうではないのです。

先ほど言った通り、ヘッドラインがよくなければ本文は読んでもらえません。
ということは、ヘッドラインの仕事は一つです。

ヘッドラインは本文を読ませるためにある。
よって売り込みをする必要は全くない。

これが答えです。

そしてヘッドラインは以下の3つの問いの答えを元に形成されていなければいけません。

  1. この市場を動機づけている大衆欲求はどんなものか?(根源的欲求)
  2. あなたの商品がどのように大衆欲求を満たすかを、その市場の人々はどの程度知っているか?(市場の商品認知度)
  3. 市場の人々は、これまでどのくらいの類似商品を見聞きしてきたか?(市場の成熟度)

の3つです。

1はそのまま市場を動かしている欲求は何かということです。

安全、恐怖、愛、利益、興味・・・

この点については様々な根源的欲求があるし、様々な解説があるのでこの記事では飛ばします。

この記事では主に、2,3について解説します。
というのも、これがヘッドラインにおいてテクニカルな部分であり、
1については広告の世界で誰もが知っていて、
あるいは知らなくとも直感的にわかることですが、
2,3は広告のプロでも知っている人は少ないのではないか、
と思われる概念だからです。

見込み客の商品認知度

このヘッドラインについての3つの問いは、
伝説的コピーライター、ユージン・シュワルツが提唱したものです。

そしてその著書『Breakthough Advertising』は、
コピーライティングの最高峰として君臨し、
その中で、2,3をそれぞれ市場の商品認知度、市場の成熟度としてカテゴライズしました。

最前線のマーケター、セールライターならみんな知っている概念ですが、
一般的なWeb制作会社の担当者、大企業の宣伝部ではまず知らないでしょう。
なのでこの記事を読むだけで、ヘッドラインについて、
その人たちよりも一歩先んじれます。

まずは2の商品認知度について説明します。

ユージン・シュワルツの商品認知度とは、マスメディア的な、
「ブランドを何人が知っているか」
という意味ではありません。

<個人の商品に対する心理的な距離>

のことを言います。

これは

  • 商品が解決する問題への認知
  • 商品が提供する解決策の認知
  • 商品自体の認知度
  • 商品の購買欲求

の4つの要素を満たすかどうかで、5段階に分かれています。

この4つ全てを満たさない状態を認知度1とし、
逆に4つ全てを満たす場合は認知度5とします。

商品認知度5

iphoneのような誰でも知っていて、誰もが欲しい商品はここに分類されます。

ここでのヘッドラインは凝ったアイデアは一切いりません。
あえて言えば商品名と価格だけが重要です。

商品認知度4

商品のことを知ってはいるけれども、
そこまで欲しがってはいない状態です。

先ほどの要素に当てはめると

  • 商品が解決する問題への認知:あり
  • 商品が提供する解決策の認知:あり
  • 商品自体の認知度:あり
  • 商品の購買欲求:なし

という状態です。

そして広告の仕事の大部分がこのレベルにある市場へのアプローチです。
ヘッドラインは商品名を使いつつ、その優位性を主張します。

  • もぎたての味———ドールのパイナップル
  • どこへいっても、レンタカーのハーツがおそばにいます

といったかんじです。

セールスライターは「よそではなくうちの商品を選ぶべき理由」を提示します。

商品認知度3

商品は知られていませんが、解決策があることは知っています。

先の4要素に当てはめると、

  • 商品が解決する問題への認知:あり
  • 商品が提供する解決策の認知:あり
  • 商品自体の認知度:なし
  • 商品の購買欲求:なし

例えば

「あなたの体調不調を治すには、Aという栄養素が必要です。」

という解決方法を知っていても、

「Aという栄養素を取るには肉を毎食1kg取らなければいけません」

という解決策に対する問題がある場合です。

つまり商品とは、解決策に対する問題を解決したものと言えます。
今の例で言えば、
「その肉1kg分のAを、このカプセル一錠にこめました」
というふうにです。

このレベルの商品認知度から、プロのセールスライティングの技術が必要となってきます。

というのも、商品の認知がほとんどない状態から、
商品を欲しがるように誘導しなければいけないからです。

また重要な点として、認知度4以上は競合が激しいレッドオーシャン状態ですが、
認知度3以下は競合がいないブルーオーシャンい状態です。

よって、戦略的にこの市場を狙うことができれば、
市場を独占状態にできます。
独占状態にできれば、高収益を得られます。

なのでプロのセールスライターはこの市場を
積極的に狙いに行きます。
(そもそも認知度4以上でスキルを発揮する余地はほとんどありませんが)

この段階でのヘッドラインは、漠然とした欲求を、はっきりと見込み客が自覚できるよう、
ドラマチックに言語化・視覚化する必要があります。

例えば次のようにです。

  • あなたも洗濯物を真っ白に洗い上げたくありませんか?
    ゴシゴシ洗うことなく
  • いつか脱サラしたい人へ
  • 友人を増やし、影響力を高める方法

このように解決策は見えていても、解決策の入手方法が分からない人へ、
「この広告を読めばそれが分かりますよ」とアプローチする。

商品認知度2

問題を自覚はしていても、解決策が分からない状態です。

4要素に当てはめると、

  • 商品が解決する問題への認知:あり
  • 商品が提供する解決策の認知:なし
  • 商品自体の認知度:なし
  • 商品の購買欲求:なし

という状態です。

健康・体調の例:

  • 現象: 寝ても疲れが取れない。午後になると頭がぼーっとして、仕事の効率が激落ちする。
  • 問題の認知: 「体力が落ちた」「パフォーマンスが下がっている」ことは自覚している。
  • 解決策が分からない:
    • もっと寝るべき?
    • 栄養ドリンクを飲むべき?
    • 筋トレを始めるべき?

ここでやるべきは、
「実はそれは睡眠時間ではなく、『血糖値の乱高下(グルコーススパイク)』が原因です」
と、新しい解決策(メカニズム)を教えること、

ではありません。

確かに広告の本文ではそれを伝えますが、ヘッドラインにおいてはやってはいけません。
ここでやるべきは、

あなたの悩みは解決できるんですよ。
という希望を持たせることです。

例えば次のようなヘッドラインです。

  • 英語でこんな間違いしていませんか?
  • 切らずに痔を小さくします
  • 我慢できないかゆみを止めます
  • あんなに辛かった腰痛がついに消えた。
    医者も見放した私が、再びゴルフ場に立てるようになった理由

これらのヘッドラインは、商品名はもちろん、
どうやって「治療」するかのメカニズムすら不明です。

ただ結果だけを提示します。

商品認知度1

これが最も困難な市場です。
そもそも見込み客がまったく問題を自覚していないときです。

4要素に当てはめると、

  • 商品が解決する問題への認知:なし
  • 商品が提供する解決策の認知:なし
  • 商品自体の認知度:なし
  • 商品の購買欲求:なし

の状態です。

しかし、この市場が最も人数が多いです。
もしもこの市場を動かせるレベルのセールスライティングができれば、
爆発的な売上が期待できるでしょう。

このレベルのライティングは、経験を積んだプロでも困難な領域です。

これをすればよいという絶対のテンプレートなどは存在しません。
ただし、してはいけない法則はあります。
それを抑えて置けば、あとは確率の問題です。

例えるなら周囲がまったく見えない中で、射的をするとき、
的がない方向だけは分かるから、あとはありそうな場所へ連射するだけです。

ではやってはいけないこととは何か?

  • 価格への言及:
    そもそも問題を認識すらしていない人へ、
    問題解決手段(商品)を値引きしますなどと言っても無意味
  • ロゴや商品名の提示:
    前述と同じ理由。
  • 商品がもたらす効用の提示:
    意外かもしれないが、商品の使用によって得られる効用を伝えても無意味である。
    認知度1は、「欲しいとも、困ってるとも思っていない人」なので、
    欲しくない効用を伝えられても意味がない。

商品がもたらす効用のことを、セールスライティングでは「ベネフィット」と言います。

そしてセールスライティングの世界ではこれは最も基本的な概念であり、
主要な「武器」となります。

ライターの世界では、
「ドリルを売るな穴を売れ」
という格言がある通り、
商品ではなく結果を売り込めと言われます。

ベネフィットはその結果のことです。

しかし認知度1の商品は、商品がもたらす効用の提示、つまり、
「ベネフィットを使ってはいけない」というルールがあります。

プロのセールスライターがこの認知度の商品のライティングに苦悩するのは、
ライターの基礎的な武器であるベネフィットが使えないからです。

ではどうすればいいのか?

以上のルールから導かれる結論は、
認知度1の商品のヘッドラインは、
見込み客が読まざるを得ない、常識を破壊するヘッドラインです。

  • なぜ、能力が劣るあいつが、お前よりも稼いでいるのか?
  • 私がピアノの前に座ると、みんながクスクス笑いました。しかし、弾き始めると……
  • 私がフランス語で給仕に話しかけると、彼は青ざめました

これらは古典的で、伝説的な広告のヘッドラインです。
これらのヘッドラインは、このヘッドラインだけでは商品の中身もベネフィットもわかりません。

ただ先を読ませる魅力にはあふれています。

ただし、こういうヘッドラインを使ったからと言って成功するわけではありません。
それは試してみるまで分からないのです。

市場成熟度

それではヘッドラインで問うべき問いの3つめ、

市場の人々は、これまでどのくらいの類似商品を見聞きしてきたか?

つまり市場成熟度について解説します。

市場成熟度1

認知度は5から説明しましたが、成熟度は1から説明します。
というのも、認知度は5が一番対策としては簡単なものになるので、
5から始めましたが、成熟度は1が一番簡単だからです。

そもそも市場成熟度とは何か?

それは市場(見込み客)が、どれだけどのカテゴリーの商品の広告を
見続けていたか、そしてそれに対してどんな感情を抱いているかです。

市場成熟度1とは、類似商品が全く存在しない状態のことです。

つまり、ブルーオーシャン状態です。

この状態の市場は、商品に一度も触れたことがないけれども、
一度興味を持たせれば、割と簡単に商品に夢中になり、
喜んで買ってくれるようになります。

なぜならすべてが目新しいからです。

極端なことを言えば、大量の類似商品が合ったとしても、
それをどこの会社も広告宣伝していなかったとしたら、
その市場は成熟度1ということになります。

ここで重要なのは、商品自体が新発売されたかどうかは関係ないことです。
重要なのは、見込み客にとって目新しいかどうかです。

例えばライフブイ石鹸というものがあります。

これは1894年に医療衛生目的の石鹸として開発されました。
しかし、この石鹼には薬品臭という欠点が存在しました。

けれども1930年、オーストラリアで、
「B.O.(body odour=体臭)のせいでEvelynは人気を失った…
でもライフブイを使って解決した」
という広告が展開されると、瞬く間に市場に広がりました。

つまり、薬品臭という欠点を、臭い消しの新商品として定義しなおしたわけです。

商品自体は古くからありましたが、市場ではそのような商品が初めて、
いえ、市場自体がこの時できたため、ライフブイは画期的「新商品」としてデビューしたわけです。

このときやるべきヘッドラインは単純です。

あくまでもシンプルにストレートに、ベネフィットを主張すること、です。

  • 今すぐに!醜い脂肪を落としましょう!

そして儲かると、すぐに競合他社が追随してきます。
そうなったら成熟度2です。

市場成熟度2

成熟度2では自社以外に複数の競合が参戦し、
広告が市場にあふれ出している状態です。

つまりは市場はその商品に<慣れだして>いるので、
ストレートに主張しても、以前ほどの効果は望めません。

この状態での市場へのアプローチ方法は、
ストレートな主張を少し膨らませるだけでいいです。

例えば最初は、

  • 一カ月で5キロやせる新ダイエット!

のようなストレートな主張だったのが、

  • 一か月で10キロやせる!圧倒的なスピードダイエット

となり、最終的に

  • 一か月で10キロ痩せる!しかも運動・食事制限は一切不要!

となっていきます。

市場が成熟していくなら、技術も進歩するので、これらは嘘ではありません。

しかし限界はあります。
それは商品自体の効果の限界でもあり、
市場がそういう広告を目にし続けることで、
「飽きる」という意味での限界でもあります。

市場は似たような広告が溢れるとともに、
だんだんと懐疑的になり、効果をある程度割り引いて考えます。
そして広告主はそれを見越して段々と盛りだします。

しかしやりすぎると監査が入って終わるので、
別の方策を考えなければいけません。

それが成熟の段階3です。

市場成熟度3

市場はすでに、その商品に関する効能について、あらゆる誇張された表現に慣れています。
なのでもはやその広告を見ても注目しなくなります。
注目されなければ広告としての効果は0です。

どうすればいいでしょうか?

まず大事な前提として、市場は広告に対して冷笑的になっていたとしても、
欲求自体がなくなったわけではないということです。
つまり、「信じはしないけど、広告が訴えているような風になりたい」
という状態ということです。

だから冷笑状態でも反応してしまうような広告を出せばよいということになります。

具体的には効果に対して派手な約束をするのではなく、
その約束をどうやって達成するかに焦点を当てるのです。

つまり、この商品は「何(what)」をしてくれるかはもう誰もが知っているから、
「どうやって(how)」達成するかをヘッドラインでアピールするのです。

例えば今まで、

  • 29キロ痩せました……一時も空腹を感じずに

という、結果を約束していたヘッドラインから、

  • あなたの体から脂肪を「洗い流す」!

とか、

  • 初のダイエット特効薬!

など、効果ではなく実現のメカニズムを中心に据えます。
この時、成熟度2のように「膨らませた」表現ではなく、
なるべく一語に集約したものの方がいいです。

なぜなら「長々しいヘッドライン」そのものに市場は飽きているため、
逆に簡潔である方が新鮮に感じて、注目するからです。

そして簡潔なヘッドラインの後に、今まで伝えていた効果効能を説明しなおします。
それまでは効果効能が先に来て、メカニズムはそのあとでしたが、
丁度その逆になるわけですね。

市場成熟度4

成熟度3は一時的で終わります。

成熟度1と違って、すでに競合が大量にいるので、
成功した広告は一瞬でマネされてしまうからです。
そして成熟度4へと移行します。

成熟度4は成熟度2とおなじ方向性です。

成熟度2の時は約束を膨らませました。
成熟度4はメカニズムを膨らませます。

  • 初めてのダイエット特効薬!

  • 初めての<食事制限を必要としない>ダイエット特効薬!

のようにです。

成熟度4はやがてどうなっていくのでしょうか?
すでに予想はついていると思います。
成熟度4の広告もやがて飽きられていきます。

では次は?

市場成熟度5

もはや商品に関する広告を何一つ信じません。

これは実質的に、商品認知度1と同じ状態となります。
よって、その対策も商品認知度1と同じです。

ヘッドラインで強調されるポイントは、

商品の効果効能

実現するメカニズム

ときて、最終的に

見込み客のアイデンティティ

となります。
つまりは主役が商品から読み手自身へと変わります。

読み手は、読み手に限らず人は、
いつでも自分自身のことについて考えています。
これだけは生きている限り飽きることがありません。

では成熟度5を待たずに、いつでもそれを使えばいいじゃないか?
と思われるかもしれません。
それなのにどうして成熟度5になってからこれを持ち出すのでしょう?

それは他にもっと手っ取り早い手段があったからです。

アイデンティティはどうしても回りくどい手段を取らざるを得ません。
そして人というのは無限の集中力を持つわけではありません。
特に現代社会では金魚よりも集中力が劣っていると言われるくらいです。

市場成熟度5ではこれを使わざるを得ませんが、
その成功は確約されているわけではありません。

けれども他の成熟度ではもっと確実で、手っ取り早い手段が存在します。
だったらそちらの方を使ったほうがいいというのは当然の帰結です。

ユージン・シュワルツは成熟のすべての段階を経験し、克服した業界の典型例として、
たばこ業界を挙げています。
※以下は『Breakthrough Advertising』より適宜引用

成熟度1の時は、

  • キャメルの為なら1マイルでも歩く!

※キャメルはたばこの銘柄の一つ

のようにストレートに商品名とその味わいの価値をアピールしました。

そして成熟度2で

  • ラッキー(ラッキーストライク)に火をつければ、
    肥満の元になる甘いものが欲しくなくなる!

のように膨らませます。

効果効能について認知され過ぎて飽きられたころ、
つまり成熟度3では新しいメカニズムを主張しだします。

  • ラッキー(ラッキーストライク)は、トーストされています!
  • キャメル———あなたのTゾーンを守ります!

    ※Tゾーンとは口と喉のこと。つまり他のたばこよりも
    喉に悪くないということ)

その戦略に競合他社が乗っかり、さらに優位性をアピールしなければ
埋もれてしまうようになります。

  • 10人中9人の医師がラッキーを選択!

やがてこうした広告も飽きられ、
追い打ちとばかりに健康被害を理由に政府によって
広告が規制されるようになります。

それが1950年代のことです。

たばこ業界はどうやってそれを乗り切ったのか?

もはや言葉すらヘッドラインの主役ではありませんでした。

たばこのブランドの一つである、「マルボロ」は、
男らしいビジュアルを前面に押し出し、
「マルボロは男らしさの象徴」
というイメージを定着させたのです。

もはや効果効能もメカニズムも、
マルボロを選ぶ理由にはなりませんでした。

「男らしさ」を持つものは、
マルボロを吸わねばなりませんでした。
というより、マルボロを吸うことで、
「男らしさ」を主張することができたのです。

この<消費によるアイデンティティ形成>は、
ルソーやヘーゲルといった哲学者も言及しており、
後のマルクス、ヴェブレンなどの経済学者も認めるところです。

まとめ

以上、ヘッドラインで考えるべき3つの問いの内、2つを解説しました。

素人コピーが勝つ場面もあれば、きっちりとライティングを学ばなければ太刀打ちできない市場もあります。

そしてライティングの基礎であるベネフィットすら通じない市場では、
アイデンティティに訴求するしか方法がありません。

ヘッドラインを考えるときは、以上のことを念頭においてください。

今回はここまで。