ウェブ広告でのKPIの設定方法


ウェブ広告運用の基本ステップ(KGIからの逆算)

広告運用のステップは3つのフェーズに分かれている。

フェーズ 1:戦略と目標の設計(Design)

これは、**「どこまで費用をかけていいか」**の基準を作る段階です。

  1. KGI(最終目標)の確認:
    • 例:月間利益100万円、年間売上1億円など。
  2. 限界CPAの算出:
    • 計算:
    • 利益を確保するために、これ以上は絶対にかけられない獲得単価の上限を定めます。
  3. 目標CPAの設定(重要):
    • 限界CPAから利益マージンを差し引いた、現実的な目標値を設定します。例えば、限界CPAが10,000円なら、目標CPAは8,000円などと設定します。
    • ※ここが、最初の目標設定で抜けやすいポイントです。限界CPAは「上限」であり、「目標」ではありません。

フェーズ 2:実行と実績の比較(Execution & Check)

実際に広告を出稿し、結果を評価する段階です。

  1. 広告出稿とデータ蓄積:
    • 設定した目標CPC(目標CPA×目標CVR)に基づき、入札戦略を設定して広告を配信します。
  2. 実測CPAの確認と比較:
    • 実測CPAを算出し、設定した目標CPAと比較します。
  3. 予算配分の決定:
    • 目標CPAを下回っているチャネル(利益が出ている)には予算を増額
    • 目標CPAを上回っているチャネル(赤字または利益が薄い)には予算を減額または停止します。

フェーズ 3:最適化とボトルネックの特定(Optimization)

目標CPAをクリアできていないチャネルやキャンペーンの具体的な原因を突き止めて改善する段階です。

  1. CPAの分解とボトルネックの特定:
    • CPAを**CPC(クリック単価)CVR(コンバージョン率)**に分解し、どちらが目標値を上回っているか(または下回っているか)を確認します。
      • 例: CPCが高すぎる 入札/ターゲティングの問題
      • CVRが低すぎる LP/オファー/クリエイティブの問題
  2. 改善アクションの実行:
    • CVRが問題の場合: LPの構成、コピー、CTA(行動喚起)を見直し、テストします。
    • CPCが問題の場合: ターゲティングの絞り込み、広告の品質スコア改善、入札戦略の見直しを行います。

実務シミュレーション:ウェブ広告運用計画と改善

「KGIからの逆算→運用→ボトルネック特定→改善」のステップ全体をシミュレーションする、実践的な練習問題を作成しました。

この問題を通じて、数値目標の設定から、実データに基づいた運用判断、そして具体的な改善アクションの決定までの一連の流れを習得しましょう。


【前提条件】新規B2B SaaSサービスのリード獲得

あなたが担当するのは、新たにリリースされた法人向けSaaS(サブスクリプション型ソフトウェア)の無料トライアル(リード)獲得キャンペーンです。

項目数値
商品単価(年間契約)600,000円
原価・諸経費(人件費など)200,000円
無料トライアルからの成約率10%
月間目標成約数(KGI)5件
月間広告予算2,000,000円
業界平均CVR(LP2.5%

【課題】

以下のステップに従って、KPI目標値を設定し、実際の運用結果を分析して、改善アクションを決定してください。

ステップ 1:KPIの逆算と目標設定

上記の前提条件に基づき、以下のKPI目標値を論理的に算出しなさい。

  1. 限界CPA(Cost Per Acquisition):リード1件あたりにかけても赤字にならない上限額を計算しなさい。
  2. 月間目標CV数:KGI(月間成約数5件)を達成するために必要な月間獲得リード(CV)数を計算しなさい。
  3. 目標CPA:広告予算と目標CV数から、実質的に目指すべき目標CPAを計算しなさい。
  4. 目標CPC:業界平均CVR(2.5%)と目標CPAに基づき、**目標CPC(クリック単価)**の上限を計算しなさい。

ステップ 2:運用結果の分析と判断

上記で算出した目標値に基づき、実際に広告運用を行った1ヶ月の結果が以下の通りでした。

広告チャネル広告費クリック数CV数
Aチャネル(リスティング広告)1,000,000円4,000回25件
Bチャネル(ディスプレイ広告)1,000,000円6,000回15件
合計2,000,000円10,000回40件

この実績データに基づき、以下の問いに答えなさい。

  1. 月間目標達成度の評価
    • 目標CV数(問2)に対し、実績CV数(合計40件)は達成しましたか?その結果、目標成約数5件の達成見込みはどうなりますか?
  2. CPAの評価と予算判断
    • Aチャネル、Bチャネルそれぞれの実測CPAを計算しなさい。
    • 実測CPAを目標CPA(問3)と比較し、次月、どちらのチャネルに予算を増額すべきか判断しなさい。

ステップ 3:ボトルネックの特定と改善アクション

次月、**予算を増額するチャネル(問6で判断したチャネル)**のCPAをさらに改善するために、CPCとCVRを分解してボトルネックを特定し、具体的な改善アクションを提案しなさい。

  1. ボトルネックの特定
    • 予算を増額するチャネルの実測CVRと実測CPCを計算しなさい。
    • 目標CPC(問4)と業界平均CVR(2.5%)と比較して、CPAが高くなっている最も大きなボトルネックは「CPC」と「CVR」のどちらにあるか判断しなさい。(※目標CPCより高い、業界平均CVRより低い方をボトルネックとする)
  2. 具体的な改善アクション
    • 問7で特定したボトルネックを改善するために、最も優先して行うべき具体的なアクション(LP改善、ターゲティング調整など)を2つ提案しなさい。
答え

実務シミュレーション:解答と分析

ステップ 1:KPIの逆算と目標設定

ここでは、事業の最終利益を確保するための「上限」と、広告予算を基にした「目標値」を設定します。

1. 限界CPA(Cost Per Acquisition)の算出

限界CPAは、獲得1件あたりの売上から原価・諸経費を引いた金額で、赤字にならない上限です。

限界CPA=商品単価−原価・諸経費

限界CPA=600,000円−200,000円=400,000円

2. 月間目標CV数(リード数)の算出

月間目標成約数(KGI)5件を、成約率10%から逆算します。

目標CV数=成約率月間目標成約数​

目標CV数=5÷0.1(10%)​=50件

3. 目標CPAの算出

広告予算2,000,000円と目標CV数50件から、予算内で目標を達成するための単価を算出します。

目標CPA=目標CV数月間広告予算​

目標CPA=2,000,000円​÷50件=40,000円

(※目標CPA 40,000円は、限界CPA 400,000円を大きく下回っているため、十分な利益を確保できる設定です。)

4. 目標CPC(クリック単価)の算出

目標CPAと業界平均CVR(2.5% →0.025)から、入札単価の上限を計算します。

目標CPC=目標CPA×目標CVR

目標CPC=40,000円×0.025=1,000円


ステップ 2:運用結果の分析と判断

5. 月間目標達成度の評価

  • 目標CV数: 50件
  • 実績CV数(合計): 40件
  • 達成度: 40÷50=80%

評価: 実績CV数40件は目標50件に届いていません(達成度80%)。このままでは目標成約数5件の達成は難しくなります。

目標成約数達成見込み=40件×10%=4件

目標成約数5件に対し、実績見込みは4件となるため、次月は運用改善が必須です。

6. CPAの評価と予算判断

各チャネルの実測CPAを算出し、目標CPA 40,000円と比較します。

チャネル広告費CV数実測CPA (広告費÷CV数)目標CPA (40,000円)との比較
Aチャネル1,000,000円25件40,000円目標と一致
Bチャネル1,000,000円15件66,667円目標を大きく上回る

Google スプレッドシートにエクスポート

予算判断: Aチャネルは目標CPAと一致しており、予算を効率的に使えています。一方、BチャネルはCPAが目標を上回り、非効率です。

よって次月はAチャネルに予算を増額すべきと判断します。

ただし新しいチャネルを開拓するという選択肢もありです。
とはいえのちのボトルネック分析で、チャネルABともに改善の余地はありそうですが。


ステップ 3:ボトルネックの特定と改善アクション

**Aチャネル(リスティング広告)**をさらに最適化し、CPAを目標の40,000円から下げていくための分析と改善を行います。

7. ボトルネックの特定

Aチャネルの実績から、CVRとCPCを計算します。

  • 実測CVR: 25件÷4,000回​=0.00625→0.625%
  • 実測CPC: 1,000,000円÷4,000回​=250円
指標実績値目標値/基準評価
CVR0.625%業界平均 2.5%業界平均を大幅に下回る
CPC250円目標 1,000円目標より大幅に低い

Google スプレッドシートにエクスポート

ボトルネックの判断: CPCは目標より大幅に低く抑えられており、クリックを非常に安く獲得できています。しかし、CVR(0.625%)が業界平均$2.5%$を大きく下回っており、LPで多くの見込み客を逃していることがわかります。

**最も大きなボトルネックは「CVR」**にあります。

8. 具体的な改善アクション(優先度の高い2つ)

CVR改善に焦点を当てた、最も効果の高いアクションを提案します。

フォーム上部に「30秒で完了」「入力は3項目のみ」といった心理的なハードルを下げる文言を追記し、フォームでの離脱率を下げる。

ファーストビュー(FV)の訴求力強化とA/Bテストの実施:

FVのキャッチコピーを**「ターゲットの悩み(法人向けSaaSの課題)」「解決後の利益(ベネフィット)」**に絞り込み、具体的に改善する。

現在のFVをAパターンとし、改善したFVをBパターンとしてA/Bテストを行い、CVRが高い方を採用する。

入力フォームのEFO(最適化):

フォームの入力項目数を最小限に減らす(例: 会社名、氏名、メールアドレスのみ)。

フォーム上部に「30秒で完了」「入力は3項目のみ」といった心理的なハードルを下げる文言を追記し、フォームでの離脱率を下げる。